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痘痕も靨 プジョー RCZの魅力





 “世界最古の自動車メーカー”と聞かれると世界で初めて車をつくったメーカーなのではと思いがちだが果たしてどうだろう。


蒸気自動車がどうこうなんて議論に発展してしまうと車の起源のようなちょっとずれた方向性に話題が流れてしまうから世界最古の“車”ではなくあえて“自動車メーカー”としたのはプジョーというメーカーを引き合いに出したかったからである。






しかしガソリン自動車の歴史の流れがそのままプジョーに当てはまってしまうのだから実に面白い。


自動車(ガソリン車)を世界で初めて開発したメーカーは紛れもなくベンツ(カール・ベンツ)であるのだが、それは内燃機関を自動車の動力に使用するという特許についての観点であったことは歴史的系譜を辿れば明らかである。


ただカール・ベンツが先に特許を取得していなければ、その名はダイムラー(ゴットリープ・ダイムラー)やマイバッハ(ヴィルヘルム・マイバッハ)になり得たことは互いに接点を持たず開発にあたっていた当時の時代背景を如実に表していると言える。


ちなみにベンツがエンジンについての最初の特許を取得したのが1879年、ダイムラーとそのビジネスパートナーであったマイバッハがガソリンエンジンについての特許を取得したのが1885年、その後1886年に自動車に関する特許を取得したのがまたベンツであった。


いずれもドイツ国内における自動車の歴史の流れであったが、なぜここにフランスが入り込んでくるのかというのはダイムラーという技術者の関与が大きい。


アルマン・プジョーが1882年に自動車メーカーとして設立したプジョーはすでに蒸気機関をエンジンに採用した自動車の製造にあたり、3輪蒸気機関自動車を誕生させていた。


しかしこの時点ですでにプジョーが蒸気機関ではなくガソリンエンジンこそ次世代の自動車機関であるという先見の明を持っていたことは世界最古の自動車メーカーたりえた所以ではないだろうか。


時間を置かずしてダイムラーが製造したガソリンエンジンのパテントを保有していたフランスの工作機械メーカー、パナールから自動車用としてエンジンの供給を受け、製造したのがプジョー初のガソリン車であるType.2だった。







パナールからダイムラー製エンジンの独占供給をものにしたプジョーはその後量産体制を整えたことで“世界最古の自動車メーカー”となった。


その後続々と生まれた自動車メーカーは言わばプジョーの延長線上にあると言っても過言ではないかもしれない。


フランスの自動車メーカーはルノー、シトロエンと続き現在ではプジョーとシトロエンを合併したPSA・プジョーシトロエンというフランス最大の自動車メーカーへと発展する。





はてさて、そんな前置き長いプジョーであるのだが日本国内で目にする機会はあまり多いとは言えない。


206のヒットを皮切りに日本国内の流通台数が増えたとはいえまだまだ少数派であることに異論は唱えられない。


近年では3008や5008を目にする機会が随分と増えたが、それでも「オッ」となってしまうんだから実に肩身の狭い思いである。







昨今流行のSUVに便乗した3008、5008だがその車名の流れは1007の系譜を辿っている。


プジョーは1929年に登場したモデル201を命名規則として3桁の数字の真ん中に0を入れるという伝統が受け継がれてきたのだが、2004年から1007を起点としてSUVやMPV系統のモデルには4桁を採用するようになった。


数字の伝統はそのままで特に車名に変化が与えられるということは無かった。


ちなみにポルシェが初の生産体制に入った際、開発コード“901”としてそのままそれを車名に用いようとした際に3桁の真ん中に0を入れるという車名の商標登録をすべて保有していたプジョーの申し立てにより“901”が“911”になったというのは有名な話である。





さてそんなプジョーの系譜の中で一段と異色さを放つのが RCZ と言えよう。







伝統を廃し、車名から数字を無くし、新しいエンブレムを採用した記念すべき車種ともいえる。


308のコンセプトカー308 RCZとして生まれ、2009年のモーターショー発表の後2010年から発売が開始された。


特徴的な2本のアルミアーチと瘤のようなルーフを備えたダブルバブルルーフが印象的でその年のRJCカーオブザイヤーと日本カーオブザイヤー、世界で最も美しい車という輝かしい賞を受賞している。







左が前期モデルで、右が後期モデルである。


深海魚なんて呼ばれたフェイスがより引き締まって精悍な顔つきになったが、これといって大きな変更点は加えられていない。


ただ後期モデルだけRというノーマル200PSに比べ270PSという化け物じみたスペックを引っ提げた仕様が存在し、排気量はその他のグレードと変わらないというまさにチューニングカーと呼ぶに相応しい内容だった。




紹介するからにはRCZを選んだわけなんですが、それ以前にも候補は多々あったからその判断基準はどこにあるんだなんて言われてしまうと言葉に詰まってしまう・・・


VWシロッコ / Audi TT / Peuget RCZ / BMW Z4


確かにコンセプトは似ているし、価格帯も似ている。


シロッコ 350-515万 / TT クワトロ 461-520万 / RCZ 400-550万 / Z4 513-555万







独車至上主義者(似非車好き)が見たら「TTかZでしょ」なんてアホらしい回答が即答で返ってきそうだが車をそんな目線で判断すること自体が実に虚しくて悲しい。







攻撃的なフェイスだがどこか上品さを兼ね備えている。


流線形の流れるような美しいフォルムに2本のアーチが目を惹く。


ちなみにこの仕様はアルミではなくマットブラック仕様である。







プジョーは“猫足”なんて足回りの表現をされたり、宙を浮いて走ってるなんて言われ方をするけど、ことRCZに限って言えばそれは当てはまらない。


フランス車を代表するしなやかで路面に吸い付くような柔らかい接地感とは裏腹に路面の凹凸をダイレクトに受け、その都度にゴツゴツとした感触はどちらかというと硬めの印象だ。


ただこれは低速域における限定的なもので、高速域になると途端にサスの安定性を見せ猫足が姿を現す。


高速域での感触はあたかもバックトゥザフューチャーに登場するホバーボードのように浮いているかのようなハンドリングを見せるから驚く。







鼻先がぐいぐいとコーナーに曲がっていき、曲がっていてもカーブにおけるGをほとんど受けずにすんなりと速度をあげられる。


プジョーの味付けなんだろうけど、全域で猫足というよりは限定的な猫足という感じ。


ハンドリングも足回りも基本的には硬質感があって、ヘタってきたくらいが丁度いいんじゃなかろうかという感触だが、国産車に乗り換えると急に軟弱さが際立ってしまって安心感が薄れてしまう。


ただものすごく運転しやすいしハンドリングが軽快だから果たしてどっちが正解なんだろうと考えこんでしまう時があるのね。







まぁでもこういうクセの強い車は国産には作れないし、売れないんだろうな・・・


テンロクターボとはいえ劇的に速い車じゃないし絶対的な最高速は出ないんだけど、うまく回転数を合わせて加速してあげるととてもそこいらの車には追いつけないような加速をするからなかなか面白い。


まぁ個人的にリッタークラスのスポーツバイクに乗っているというのもあって、加速の過激さは雲泥の差があるんだけど、多分バイクに乗ったことの無い人が乗れば速いと感じるのかもしれないね。


追い越し加速する時はMモードにして一段ギアを下げて加速してあげれば瞬間移動できるので便利ですよっと。



しかしこの手のターボ車はほんとにススが溜まりやすいという噂をよく聞くのだが、多分日本の道路事情と運転の仕方なんだろうね。





エンブレも効かない、ターボも効かない速度域でちんたら走ってたらそりゃ溜まっていくだろうなという印象で、ある程度踏める時は踏んであげてガソリンを燃やしてあげないとだめなのね。


ガソリンと空気の混合が一番うまくいっている一番燃焼効率のいい(理想の空燃比)回転数は加速のはじまるいわゆるパワーバンドに入る手前で、2000回転でスパスパとギアを勝手に上げてしまうATモードではどう考えたってススが溜まる一方である。


ちなみにワタシが過去に乗っていたバイクは常にパワーバンドを保持するようこころがけていたが、どれもエンジン内部は汚れ一つない状態だった。


だからATモードならよりギアに応じた回転数を上げられるスポーツモードにしたほうがエンジンにはいいし、常にパワーバンドを意識して走れるMモードの方がよりススの出にくい走り方ができるんじゃなかろうか。





内装に関しては文句なしといったところで、ナッパレザーの風合いと質感はかなり高級感がある。


真ん中にはめ込まれたアナログ時計が何とも憎い。


特に真新しい装備もなく、ハンドルのボタン操作なんてものは一切ないし、アナログ感漂う内装なんですがまとまり感があって非常にしっくりくる味わいなんですねこれが。


お分かりの通りボンネットが一切見えないのと、アルミナムアーチからミラーにかけての視認性の悪さゆえ交差点では非常に気を使って頭を左右に振らないと急に視界から現れた自転車と衝突すること必死である。







19インチの黒ホイールはキャリパーも黒!


赤いリムは個人的な趣向です。(バイクも黒ホイールは赤リム一択)







特徴的なダブルバブルルーフ。


後期系はリアスポイラーを手動で操作できます。






痘痕に靨とはよく言ったもので、そんな諺がピッタリとあてはまるそんな車。


全体的になかなか秀逸な印象ですが欠点も多く、結果的に、性能とかそういうもの度外視でただただデザインで選ぶとRCZに自然にたどり着いたというだけでその後の“痘痕”に関しては非常に冷静に静観したうえで“靨”とみなしているのであります。


ちなみに痘痕に関する部分はあげたらキリがありません・・・




・セカンドギアの繋がりが悪く、ローはほんとに出だしだけでセカンドに上がるタイミングで一息つくから出だしでもたつく。


・スポーツモードはキビキビ走るが回転数が上がり気味なので追い越し加速に向かない。


・アルミナムアーチが太くて右左折の際視界が悪く、急に自転車が視界に入り慌てること幾度。


・左ハンドル仕様をそのまま右ハンドル仕様に持ってきたレイアウト。


・ペダル位置が悪く足が疲れる。


・フェイスのおかげでコンパクトに見られがちだが車幅が1845mmと意外と広い。


・ダブルバブルルーフは冬に曇ると視界が悪く、ヒータを入れると水滴が残り水垢が付きやすく常に曇りがちになる。


・燃費は乗り方にもよるが10km/l前後でいいとはいえない。


・ドアが致命的に重く、お年寄りは中からドアが開けられない。


・ハンドリングが固く、市街地走行ではキビキビ走れない。


・急な角度は曲がれない。


・タイヤが太く路面の凹凸をハンドルがダイレクトに受けるため常にハンドルは両手操作。


・エアコンの温度操作で暖房とクーラーの境目が分からり辛い。


・・・・・etc




ただこれだけの欠点を一瞬で補ってしまうスタイリングとハンドリングの楽しさがRCZの全てと言っていい。


結果どうにもこうにもクセの強い車な分けなんですが、車の造形美とかどこまでも曲がれそうなハンドリングの安定感は数ある選択肢の中でも頭一つ抜けてるんじゃないかな。


あ、あとね以外に荷物詰めなさそうな見た目ですが、絶望的に狭い後席を倒すとですね、140クラスのロッドケースは余裕で入るんですね。


つまりこんな見た目でも余裕で“釣り”に行けるんですね。






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