竹芝桟橋から伊豆大島、更には伊豆七島の最南端八丈島を結ぶ東海汽船は今も昔も変わらず金曜の夜船に乗船する客でごった返す。
釣り人の姿以上に最近はサイクリング用のバイクを担ぐ客を目にする機会が多く、一瞬時期的なものかと思ったがそうでもないらしい。
船は伊豆大島を超えると乗客もまばらになり、あの2等和室の恐怖的喧騒は影を潜め、寂しいくらいの様相を呈するが、最近になって特2等船室に乗り換えた我々は伊豆大島までの恐怖的喧騒をそれはもうクレバリーに回避しているのであった。
2等和室は今でこそ区画用の線が引かれているが一昔前は乗船番号しか振られておらず先客におけるレパートリーの威圧感は半端ないものがあったのだ。
出遅れや、席外し等のハンデがあると本来あるべきはずの区画は占領もしくは半減している可能性が高く、気づけば隅に追いやられた邪魔者は陰惨さを極め、区画に戻るには随分と勇気を振り絞る必要があったのである。
さてそんな煩わしさから解放されるために我々は席の等級を上げるという実にシンプルな方法を取っているのだが、“ただ寝るだけ”という夜船の利用目的に2等から特2等に等級を上げ1.5倍増しの料金を支払う意味はあるのか?
勇気を振り絞って区画を確保すればいいのではないか?という疑問に一晩中苦悶するのだが、株主優待券で同料金まで落とせばそれはすべてうまくいくのだと納得できるのは時期的なものだろうという結論に至った。
株主優待券は繁忙期25%引き、繁忙期以外は35%引きだから1枚800円で購入できたとしても普通船の繁忙期ではあまり効果が薄いのだが、株主優待券の使用期限ギリギリの繁忙期外だと10枚組1冊で1枚分の値段くらいまで下がるからこれはもうお得としか言いようがない。
ワタシはこの時期最も安くなる(3/31が有効期限だから安売りされる)使用期限間近の株主優待券一冊を激安で手に入れ人数分の枚数を数えつつ竹芝桟橋のターミナルで待機していた。
今回は初参戦となるナカムラ氏を迎え、ミヤナガ氏を加えた3メンバーでの釣行となる。
ナカムラ氏はルアーマン出身から遠投カゴを始めた釣りの心得をしっかりと持っているなかなか心強いメンバーで、聞けばフカセもやるというから実に万能じゃないか!と野球選手の監督のごとくその万能ぶりに目を光らせていたのであります。
伊豆大島での釣行も経験済みとのことで、もはやワタシがなにか手解きするようなことなどないくらいの意気込みだったから完全に安心しきっちゃったよね。
22時の船ギリギリに集合した我々はいそいそと船に乗り込み2等和室の喧騒を横目に荷物を置き、船内レストランへと向かった。
ここでワタシはナカムラ氏のタックルを目にする機会ができたのだが、やはりルアーマンというべきかスピニングタックルにPEを巻き、両軸を凌駕してくるのではないかと一瞬身構えてしまった。
しかしさすがに両軸にはかなわないんじゃないかというミヤナガ氏の一声で彼に火をつけてしまったようで、さしずめその場は両者の意見を汲むという形で場は収まったのだが果たしてどうか・・・
まぁ飛距離も大切なんだけど、結局はバランスが一番大事なんじゃないかと内心で思いつつもスピニングのPEはなにかとアドバンテージが多いからお世辞にも“師匠”なんてよばれながら指をくわえているなんてことがないよう気持ちを一新していたのであります。
更にワタシは竿クラッシャーであるミヤナガ氏が以前ナカムラ氏の竿を無神経にもクラッシュした事案を聞き、ミヤナガ氏の竿クラッシャーぶりを確信したと同時に二人の間になにかしらの遺恨が発生しているんじゃないかと勘繰ってしまった。
聞くと、どうやらナカムラ氏が車に立て掛けていた竿をミヤナガ氏がドアで挟んだあげく、へし折ったという事らしく似たような状況を何度も目にしていたワタシはナカムラ氏に“自衛”ということの大切さを説かねばならなかった。
~彼の行動半径3m以内に不用意に竿を置かないこと~
そんな論議を交わせつつ、翌日の釣りに備えるため早めに席を立った我々は閑静な特2等船室へ戻り眠りについた。
早朝、いつも通り岡田港についた船から顔を出すと遠目からたいまつの灯りが見えたのでアッ!となってしまった。
しかしよく見るとガス式で、横にプロパンガスのボンベが置いてあったからいかにもいかにも的な荘厳感は一瞬でチープ感が漂い姿を消してしまった。
椿祭りが開催されているからその余興的ものかと思ったが、その設置理由は未だに謎である。
我々は八幡荘に直行し、荷物を預け、車で元町にあるマルイチ釣具へと向かった。
オキアミ3kgに集合剤と付け餌、氷を入手し一旦八幡荘へと戻り、風の強さも考慮して先ずは泉津港で竿を出すことにしたが、快晴の天気とは裏腹に風の強さが際立っているようだった。
泉津港はまだ釣り人が入っておらず、貸切状態だった。
車から積み荷を降ろし、釣りの準備をはじめた。
ナカムラ氏は先端でフカセ釣り、ミヤナガ氏とワタシは先端右から両軸遠投カゴ釣りという形で今回の釣りを開始した。
黄色く塗られた灯台の基でフカセ釣りを開始するナカムラ氏。
正面には有名なオオツクロの地磯が望める。
ポーズを決めるミヤナガ氏の右手にはめている黒い手袋は決して“オシャレ”ではなく、付け餌のオキアミ汁で手が荒れるの防ぐためのものである。
横風で竿さばきが難しく正面に投げて竿を置くと風で竿が流されるため、遠投カゴ釣りは正面右手で向かい風を受ける形での開始となった。
ミヤナガ氏のイングラムレッドエディションが目立つ。
風とうねりに難儀しながら仕掛けを投入するも風で仕掛けが定まらず、渋い立ち回りでのスタートとなった。
バックラの恐怖から6分程度の力で投げていたがなかなかウキに反応が出ず、付け餌には反応はあるもハリスの具合を見ると大分チモトからかじられていてフグが大量発生しているようだった。
しばらくしてウキに軽い反応が出たので煽ってみると、枯れ葉のようにヒラヒラとハリスについてくる魚が・・・・
そうか・・・スズメダイも大量発生しているのか・・・。
どうやらナカムラ氏のフカセタックルにもこいつがまとわりついている様子でなかなかウキの沈み込む一本が出ないとのこと。
渋いなぁと思いつつ、遠目を狙い大遠投しているとようやくウキが海中へと消し込む大きなアタリが出た。
慌てて竿を合わせるとそれなりのサイズの魚がかかったようだ。
イサキのあたりにも似ているが、下に突っ込んで左右に頭を振る不思議なアタリで、てっきりグレが暴れているものだと思い込んでいたから、寄せて浮いてきた魚を見ていささか驚いてしまった。
第一印象はみんな「気色悪っ・・・」という感じだったがよくよく見ると愛嬌があってなかなかイカした顔をしている。
体長は20cmくらいなのに体高が40cmもあるから巻いてくると面白いアタリが出るのだろう。
しかしこの魚名前が全然分からないうえに見当もつかない・・・
見た目の印象だけで“三角の形をした魚”で検索してみると、上位ヒットしたアカククリという魚に酷似していた。
ただどうもしっくりこないと思ってさらに関連した魚を調べていると、どうやらミカヅキツバメウオというツバメウオの仲間だという事が判明した。
確かに字のごとくツバメが飛んでいる姿を上から映したような形をしている。
お魚図鑑によれば味が良くて非常に美味ということらしいが“知っていたら学者レベル”という珍しさから調理する気が失せたのでその場でリリースしてしまった。
その後全く同じサイズのものがもう一匹釣れたが同じくリリースしている。
昼に近づき結局アタリらしいアタリはワタシがかけたこのヘンテコな魚しか出なかったからナカムラ氏とミヤナガ氏も意気消沈気味という状態だった。
しかし竿を仕舞う間際にナカムラ氏の寄せ餌によってきた巨大なウマズラハギの群れを見るなり急にテンションが上がり、みなウマズラハギの捕獲へと急展開する事態となった。
ワタシはどこかでウマズラハギをタモですくってあげている猛者がいたことを思い出し、釣りではなくタモで魚をすくうという原始的な狩りを始めたのだがタモの柄が短い上に塩害によってタモの繋ぎめの金属が折れて破損してしまったため狩りを断念せざる得なかった。
目の前にいる巨大なウマズラをどうしても諦めきれなかったワタシは道糸にハリスを直結してオキアミを5枚がけして流し、ナカムラ氏の寄せ餌にあわせて餌を投入する一本釣りを開始した。
するとものの見事に一投目でウマズラが針に食いついた。
ただハリがかりに気づいたウマズラの引きは強烈で固い両軸遠投竿では魚の引きがダイレクトに竿に伝わってしまいハリス切れの恐れがあるのでなかなか竿で制御ができない。
破損してヨレヨレになってしまったタモも使い物にならないのでせっかくかけたウマズラをしばらくもてあましているうちに針が外れていなくなってしまった・・・・
ウマズラが暴れたせいか群れもいなくなり、諦めもついたので午前の部はこれが終了の合図となった。
その後我々は元町で昼食をとり、その足で午後の部となる泉津の地磯へと向かった。
地磯の入り口でワタシはミヤナガ氏がこのたびようやく新調したという背負子用のショルダーベルト付きキャリーを目にすることとなった。
彼はこれまで地磯に向かう険しい崖路を手持ちで乗り切っていたから背負子の身軽さを体感するなり声高らかに背負子の素晴らしさを力説しだした。
急勾配の崖路を下っていくミヤナガ氏とナカムラ氏。
まだ背負子の装備を用意していなかったナカムラ氏の背中には心なしか哀愁が漂っている。
地磯に降り立つとこれまで吹いていた風は影を潜めようやく本領の発揮できるモチベーションで釣りをスタートすることができた。
両軸遠投カゴ釣りで魚を狙うワタシとミヤナガ氏の奥でフカセ釣りを開始するナカムラ氏。
どうやらナカムラ氏は遠投カゴ釣りは夜にとっておくということで磯ではフカセメインで立ち回るようだ。
この地磯で釣果が無かったら伊豆大島の釣果は無いと言っていいほどの豊漁場だから堤防とは意気込みというか士気の上がり方が違うよね。
でも遠投カゴ釣りは手前に投げてもなかなかアタリが出ないから遠投の必要性は顕著で、磯でも仕掛けを投げられる上級者じゃないと釣果は望めない。
70m手前では全くと言っていいほどアタリがないのにそれ以上投げてやると急にアタリが出始める面白い磯なんだよね。
泉津で渋かった釣果を取り返すように遠投していると、ワタシの竿にようやくターゲットの魚がヒットしたようだ。
お馴染みの引きを噛みしめながらあがってきたのは良いサイズのイサキだ。
結局大島ではこれがあがらないと何もはじまらないのだ。
イサキは一度当たりがで始めるとフィーバー状態になるが、この時期はポツポツという感じで断続的なアタリだったが私一人でも食卓を潤せるくらいの釣果は出たんじゃないかな。
フカセ釣りに集中していたナカムラ氏もポツポツと手のひらサイズのグレをあげているようだったがどうにもこうにもサイズがあがらないらしく、同じ魚をあげているんじゃないかのごとく全く同じサイズのグレをあげてはリリースを繰り返していた。
もう何かに呪われているんじゃないかと畏怖の念を抱くくらい同じサイズしか釣れないというので確認したが確かに呪われてるなというレベルの同サイズだった。
もうこのサイズのグレしかいないんじゃないか!と叫びたくなるほどの虚脱感。
彼がそのサイズを抜き上げたのを見たのは何度目だったか・・・多分見てない時にもあげてるんだろうな・・・
さてそんな中ワタシのウキに、仕掛けをひったくるような大きなアタリが出たのですかさず煽るとこれまでとは明らかに違う大きなアタリが。
竿がおおきくしなり、左右に振られる。
じりじりと手前に寄せるもなかなか魚体が姿を現さないので強引に寄せると急に向きを変えて右の磯場へと突っ込み始めた。
あわてて態勢を立て直すとようやくギラギラとした魚体が目に入った。
カンパチではないかと期待を寄せていたワタシは魚体を見てサバと確信するなりスポッと抜き上げてしまったが、それを後悔するくらいの良いサイズのサバだった。
地磯で夜釣りをしているとたまに釣れることはあるが、昼時に釣れることは珍しい。
堤防でもなかなか上がらないサイズだったのでキープして持ち帰ることにした。
その後は渋い状態が続き、ナカムラ氏のフカセの呪いも解けないようなので我々は丁度時合も過ぎたころ合いに竿を仕舞った。
地磯でキープしたのはワタシがあげたイサキ、サバ、そして合間に釣れたグレの35オーバーとなった。
ミヤナガ氏の釣果については控えるが、彼は“一発男”として釣果をかっさらっていく特殊能力があるため夜に期待しようではないか。
一度八幡荘に戻った我々は夕食を取り夜の部へと準備を開始した。
夜は毎度お決まりの岡田港で一斉遠投カゴ釣りタイムである。
ナカムラ氏もようやく遠投カゴ釣りへ参加となる。
日もすっかり落ち、電気ウキで遠投カゴ釣りを投入する我々。
ここにきてようやくナカムラ氏の遠投シーンを拝見することができた。
ルアーマン出身だけあってか竿さばきがうまく、そしてなによりコントロールがいい。
飛距離ではさすがにミヤナガ氏の両軸タックルに及ばないものの、潮の流れにうまく仕掛けを投入し仕掛けを流していた。
ワタシの竿にイサキがかかり始めたのを合図にナカムラ氏の竿にもイサキがかかりはじめたようだ。
イサキをヒットさせるナカムラ氏。
ミヤナガ氏の竿にも魚がヒットした。
キープ用の発泡に続々とたまっていくイサキたち。
型の良いイサキに混じってサバも混じってきたので、小柄なサバは落とし込みの餌としてキープすることにした。
サバの切り身とイカで底物の大物を狙うミヤナガ氏。
彼は磯での何かを取り返そうとしているに違いない。
彼は以前落とし込みでギネス級のカサゴをあげたことにより“一発男”としての名を確固たるものにしたのだ。
以前ミヤナガ氏が岡田であげたギネス級のカサゴ。
カサゴのギネス記録は同じく岡田であげられたものだが、これは申請の如何によるものだから画像で判断する限りミヤナガ氏があげたカサゴは申請していれば確実にギネス記録だったに違いない。
まぁ今回は遠投カゴ仕掛けにはイサキとサバがヒットするも、落とし込み仕掛けにはウツボと思しきアタリしかなかったのだが・・・
はてさてその後もイサキとサバがヒットしたが、時合が過ぎるとイサキも姿を消しウキに反応がなくなってきたのでころ合いを見て竿をたたむことにした。
今回は伊豆大島では定番の釣果となったが、時期的に渋い時期にも関わらずいい結果だったんじゃないかな。
八幡荘に戻ってほとんど休憩をとっていなかった我々は風呂に入るなり泥のように寝てしまった。
翌朝ワタシは腹痛によって目を覚ましたが、どうやら前日食した何かが腐っていたのか、それとも美味しくて食べ過ぎたビスケットが原因か、原因不明の腹痛に悩まされていた。
腹痛にも関わらず待合所のクレープ屋でクレープを食して午前の高速船に乗り、帰路についた。
竹芝桟橋待合所前の広場にあった船の帆のモニュメントに足場が組まれて新装されているようだった。
次回の釣行ではモニュメントがどうなっているか完成を確認できるだろうか。
次はマダイを狙わねば・・・
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